2013年5月30日木曜日

自分は○○ドラマーだから

 このように、ジャンルの冠をつけて自称しているドラマーは世の中多くいます。公式ウエブサイトのプロフィールに「ジャズドラマー□□」「ロックドラマー△△」と自ら名乗るドラマーを多く見かけます。
 本当にそのジャンルを愛し、歴史を切り開き、骨を埋める覚悟があるならば、プライドの裏返しなので潔くて素晴らしいと思います

 しかし、「なんとなく」ならば、一刻も早く「○○ドラマー」ではなくただの「ドラマー」を自称した方が良いです。
 なぜなら、自分で自分の音楽的な守備範囲を制限するからです。

 例えば「ジャズドラマー」を自称してしまうと、自分では別け隔てなく何でもやるつもりでも、周囲がそういう見方をしてくれません。「この人はジャズしかやりたくないんだろうな」「8ビート嫌いで、叩けないんだろうな」「ポップスとかロックを馬鹿にしてるんだろうな」と先入観を持たれてしまいます。
 実際自称していて上記の通りにジャズ以外を馬鹿にするドラマーについては、私には理解できないし理解したくもないので、今回議論の対象外とします。先程述べた「骨を埋める覚悟のあるドラマー」とは明らかに違います。自らにプライドを持つことは他者を貶める事に等しくありません。ジャンル分けして優劣をつけ(他の畑を貶め)、自分の畑を決めつけて壁を作って安心する音楽家は確かに存在します。その残念な存在が共演者にストレスを与え、予防のために先述の不要な先入観が生まれる事は仕方ありません。

 ちなみに私橋本学は、ジャズのライブシーンに多く出没しながら、一度たりとも自分を「ジャズドラマー」と名乗った事がありません。それは、自分の音楽の幅を制限しないでどんなシーンででも面白い音楽をやりたいから、という思いが常にあり、周囲にできるだけ先入観を持たないで聴いてもらいたいからです。
 にもかかわらず、最近でも初対面の共演者に「橋本さんはジャズのドラマーなのに今日はスタンダードやらなくてすみません」「ジャズドラマーの方にこんなオリジナルやってもらえるか心配で…」と言われ、その場で全力で否定しました。その日はスタンダードはやらずに、8ビート16ビート中心の魅力的なオリジナルを非常に楽しく演奏させて頂きました。ジャズ=スタンダード・4ビートという考え方も50年くらい前に議論は終わっています。

 ○○ドラマーを自称する危険はもう一つあります。周囲の見方だけでなく、自分を分類する事で無意識に自己暗示にかかる可能性があります。「俺はジャズドラマーだからこれは必要ない、あれも必要ない」というように、出来ない事を放置、あるいは出来る事を制限して満足したりするのならば、非常にもったいない話だと思います。
 海外の名ドラマーはジャンルを簡単に越え、しかも非常に貪欲です。あのボン・ジョヴィのドラマーのティコ・トーレス氏は、「テイク・ファイブ」の演奏で有名なドラマー、ジョー・モレロ氏にジャズ・ドラミングを何年も習っていたそうです。
思えば、自分も他人も無理にグループ分けしてラベルを貼り、安心するという精神は、日本独特のものかもしれません。

 音楽をつきつめる前に、簡単に「○○ドラマー」を名乗らない方が良いです。名乗るなら、相当な覚悟と愛情をもって音楽に望めるようになってからでも遅くはありません。

2013年4月19日金曜日

続・ドラマーはリズム刻んでりゃいいのか?

 まず、音楽を聴く際に、ヴォーカル・ギター・ピアノ・サックスなど全ての楽器を順に、個別に聞き分けてみましょう。色々なドラマーが世界中にいるようにヴォーカルも人それぞれ、ギターも人それぞれ個性的なプレイヤーがたくさんいます。音楽を聴く楽しみが何倍にも増えていきます。ついでに、この「各楽器を個別に聴き分ける能力」は、実際のバンド演奏の時に必須な能力でもあり、それはただ音楽を聴くだけでも鍛えられます。

 幸運にもバンド活動ができている方は、共演しているプレイヤーの音にもっと耳を傾けてみましょう。4人メンバーがいれば、4通りの考え方があり、しかもあなたが日々ドラム奏法を学んでいるように、メンバーのプレイも日々変わっていくものです。バンド、グループアンサンブルというものをまた違った観点から捉えられる事でしょう。

 個人的にお勧めしたいのは、機会があれば少しでも他の楽器を触ってみる事です。全然弾けなくて構いません。遊んでみる程度触るだけでも、少しは他の楽器への興味が湧いてきます。私は個人的にエレクトリック・ベースが大好きで、よく触っていた時期がありました。

 本格的に手がけるならば、ピアノかギターといったコード楽器が良いです。コードネームの意味が理解できて自分で演奏できれば、ドラムで参加する際に演奏する曲への理解が深まり、バンドの共演者とも盛んにコミュニケーションがとれます。
 
 このように、ハーモニーやメロディ、歌い方に対しての理解と感覚が深まると、ドラム演奏において楽曲に対してより多様なアプローチができるようになり、アンサンブルする意識が高まり、共演者とも音と言葉でコミュニケーションが出来るようになります

 こういうドラマーを指して「音楽的なドラマー」「音楽性の高いドラマー」と呼んだりします。リズムにしか関心のない「ただのドラマー」と、「音楽的なドラマー」が、表面的に全く同じパターンをずっと演奏し続けたとしても、両者は全然違って聴こえます。

 このブログをお読みの皆様には、是非とも「音楽的なドラマー」を目指していただきたいと思います。